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2020-09

全世界で競う - 2008.08.22 Fri




テレビはオリンピック一色の毎日。

オリンピックが開催される度に思い出すことがある。
過酷な練習をし,新記録との競争,自分との競争。健康管理も含め。
勿論チームワークを必要とする競技もある。

演奏家としての独り言,偏見だろうが……スピードだけの競争なら,どれだけ楽だろう…

今から30年前後昔,私は学生としてウィーンに居た。
国際コンクールに何度か挑戦した。賞もいくつか頂いた。

ある年,コンクール事務局が指定した飛行機が遅れたのだったか,どこか乗り継ぎの空港で半日を待たされ,空港ロビーのテーブルでクラスメイトのメキシコ人と指慣らしをしていた。それも,同じリストの超絶技巧練習曲の中から「鬼火」を!!
折しもこれから飛ぶ都市は,その少し後にオリンピックが開催されるモントリオールだった。(モントリオールの空港は,その為に警備が甚だ厳しかった)

そのクラスメイトはメトロノーム144でしっかりテーブルで弾いていた,と記憶している(この曲での144は可成り速いテンポ)。「我々,まるでオリンピックに行くみたいだね」「ある意味同じかもね」等とオリンピックと比較して喋りつつ,テーブルはカタコトカタコト……打楽器と相成っていた。
私は,と言えば……当時リヒテルの古いレコーディングに惹かれ,そのクラスメイトよりももっと速い,最低160で(緩急は付くが,平均として)挑戦していた。そして人前でそのテンポで弾ける為に,家では指を動かして弾くだけなら176で弾けるべく準備した。その為には重音の他の練習曲も必要だった。
その上で,「鬼火」を通じて表現したい事は山ほどあった。


どんな練習曲であっても,ただ速く弾ければよい,というものではない。
たとえ1-2分の練習曲ですら,だ。
ましてやソナタ形式の大規模な作品や,一曲が何十分とかかる大曲となれば,その中のちょっとしたパッセージも作曲家の意図に反さぬ表現は求められるし,自分のイメージや個性を織り込まなくては,誰が弾いても同じ単なる機械そのものになってしまう。勿論スピードも求められること,一発勝負でミスタッチをしないこと,等々,挙げ始めれば条件は無限にある。
大体のコンクールに於いて,バロック時代から現代まで,当時でも15~20曲の課題曲を与えられた。
練習は,他人が聞いたなら,決して「心地良い」ものではない。同じ箇所を繰り返し何度も馬鹿みたいにゆっくり,そして色々なテンポやリズム変奏など,数小節ならまだしも,数音だけを思う音色が出るまで工夫し,技術を伴った中で弾けるべく反復,そして前後との関連,曲全体の中での意味合いを考え,時には音を出すことなく頭の中で構想を練る。仕上がりの段階であっても片手ずつの練習は必須。

そうして「技術面」「音楽性」「芸術家としての個性」を問われるのが国際コンクールだと思う。そのどれかひとつが欠けても演奏家としては認められない。
30年前ですら。


現在の国際コンクールではもっと多くの課題をこなさねばならないし,世界のレヴェルも高くなっている。


オリンピックを観ながら,数字だけで闘える競技は,演奏での国際コンクールに比べたら羨ましい存在,と思った昔をふと思い出し,現在もそう思っている演奏家は私のみではなく,多いのではないか?と思う。
勿論,オリンピックとて競技によって異なるし,そもそも比較すべきことではないことも重々承知。
ひとつの技術の為に見えない過酷な,一歩間違えば身体を壊す,いや,命と引き替えになるかも分からないトレーニングを積んでいることも分かってはいるのだが・・・


そして又,若い音楽家たちが挑戦する国際の場でのコンクールももっと取り上げて,その様な世界があることを広く知って欲しい,という密かな気持ちも抱く。


話が行きつ戻りつするが,オリンピックの後で開催されるパラリンピックも,もっと広く大いに放映されるべきではないか?と毎回思う。
これこそ生きる勇気,希望を与えてくれる催し,いや,それ以前に,私の日常に深い反省を毎回促されている。




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プロフィール

奥 千絵子

Author:奥 千絵子
★上の画像は2001年にCDにして約3枚分を収録したものを,2006年に2枚組としてリリースしたCD「樂の音に寄せて」です.『レコード芸術』2007年1月号で「特選盤」として取り上げられました.戸倉新樹教授によるライナーノートは医学生にもお薦めです.その他のCDや著書はWebsite「本館」からお入りください.このブログも「本館」のDIARYです.
★このブログの"Grüß Gott !" (文字化けの場合はGruess Gott!)は墺・南独の時間を問わない挨拶です.Website「本館」のDIARYです.出版CDや著書の詳細は「本館」のメニューからお入りください.
Website「別館」もあります. 著書「ピアノと向きあう」の説明を補うサイトです.よく頂く質問に説明を記載しています.
★上記著書については今井顕 氏によるKINOKUNIYA書評空間WEBLOG を是非ご一読くださいませ.
Auch auf Deutsch schrieb ich…
★【膠原病の記録】余りに医療のカテゴリーがが増えてしまったので目下整理中です.大変複雑な病気の経験が同じ病の方々への参考となりましたら幸いです.
「乳癌と膠原病(皮膚筋炎・多発性筋炎)」「膠原病(退院後)」 ,その他の医療の話(自分以外も含めて)は「医療・病院関係」,に取り敢えず分けました.
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Robert Stolzメドレー
演奏:東京カンマーコレーゲン 
室内楽アレンジ:奥 千絵子
ショパン:華麗なる大円舞曲Op.18
演奏:奥千絵子 ショパンのワルツは上の画像の2枚組CD「樂の音に寄せて」に入っております.
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制作・著作:奥千絵子
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